縁側はサンルーム - 日本家屋の良いところ
今回は、日本家屋には必ずといってよいほどつくられている縁側についてお話ししたいと思います。
縁側というと、冬の日だまりに座布団をだしてひなたぼっこをしたり、夏には窓を開け蚊遣りを炊いての夕涼みなど季節ごとの暮らしにあわせた楽しみ方があります。
□縁側の起源はいつ頃?
縁側には2種類あり、外のまま軒下にあるものを「濡縁」(ヌレエン)、外とはガラス戸や雨戸で仕切られているものを「榑縁」(クレエン)といいます。榑縁ではガラス戸と室内の障子の使い方次第で縁側が外になったり、室内を広げたりすることもできます。
濡縁は伊勢神宮の本殿建物の外周にまわっており古代からみられます。住まいには源氏物語絵巻などにも描かれているように、平安時代の寝殿造りの建物にはすでにつくられていたようで、その頃の様式を伝えているといわれる京都御所の建物にもみられます。
では「くれ縁」はいつ頃からつくられているのでしょう。
縁側の外側に木製雨戸を入れて縁側にまで風雨が入るのを防ぐことはなされていたようですが、ガラスを建具に用いることができる迄は濡縁としての使い方のみでした。
板ガラスは江戸期にもありましたが、当時は輸入品のためとても高価でした。明治18年(1885年)出版の「日本人の住まい」E.S.モース著には障子の低い部分の一部、現在の雪見障子の位置にガラスを用いているとの記載がありますが、大きなガラスを必要とするガラス引戸が使われ始めるのはもう少し後のようです。
その後、板ガラスの国内生産が始まるのが今からおよそ100年前の明治40年(1907年)からですのでガラス引戸はそれ以降に普及してきたと推察できます。
写真は大磯の代表的な散策地でもある「旧島崎藤村邸」。大正後期から昭和初期に建てられたといわれておりますが、引戸のあるくれ縁があり、ガラスも当時のものが残っています。
□縁側の床下はすぐに外
縁側の床は板敷きでできており、地面は三和土だったり土間だったりします。外から縁側の下を覗き込むと床板の裏側を見るができたりします。床板のすぐ下には外の空気が流れていて、地面の湿気を室内に伝わりにくくすることで外とも室内とも違う空間をつくりだしているのです。
縁側の天井は母屋の軒先から伸びる下屋の屋根の板(化粧野地板)の裏側がみえていて、天井と屋根の間には天井懐の空間がなく、やはりすぐに外になっています。
屋根は銅板葺きでできていて、瓦のように熱を帯びすぎることなく、また、軒先の薄さが建物の外観を軽やかにみせているのです。
この、屋根も床下もすぐに外になっていることが外と室内との間を取り持ち、季節に合わせ室内の温度や湿度を調整するのに丁度良い働きをしているのです。
夏には縁側の下の土間は日陰になり日の当たらない地面の冷たさを伝え、木陰の涼しい風を室内に導き入れてくれます。冬には床板が日の光を浴びて暖かくなり、日の差し込みきらない室内の冷たさを緩やかに暖めてくれます。夕方、日差しを取り入れ終えたら障子や雨戸を閉めて室内の暖かさを保ちます。
また、外から室内への風の流れは、ガラス戸・障子を開けて室内に風を取り入れることで室温を調整したり、換気をしたりするだけではなく、欄間窓を開けて、室内の上部に風の流れをつくることで、屋根側の熱が天井に沿って流れてゆき、私たちが生活している高さまで上部からの熱い熱が伝わってくることを和らげてくれます。コンクリートやボード張りの建物の、夏の日差しが当たり熱くなってしまった天井や西側の壁と比べても輻射熱も少なく快適に過ごすことができます。
□縁側の要素を新しい建物に取り入れる
このように、縁側は軒の出の深さ、屋根や天井、床の素材をみても快適に過ごすための知恵が沢山含まれているのです。
今、新しい建物を建てるときに、全てを取り入れた縁側をつくることは難しいかもしれませんが、素材や風通しのしかたなど一部を取り入れてみることは、光熱費低減にもつながり、暮らし方を豊かにしてくれる1つの方法といえます。
「伊勢原の家」では2階の個室のまわりに階段~スタディスペースを設け、冬の日差しを室内に取り込んで過ごすことができるようにしました。
「日吉の家」では2階のリビングと書斎のあいだに、大きな屋根の下になるデッキバルコニーを設け、竹林の柔らかな風と光を床からも感じながら過ごすことができます。
アルミサッシを二重にしたり、断熱性能の高いガラスを用いることは光熱費の節減にはなりますが、生活の豊かさにはつながりません。カーテンやブラインドを楽しむのと同じ感覚で、縁側をしつらえてみたり、その一部を取り入れてみるのはいかがですか。
次回は障子と襖についてお話しできればと思います。
※「榑縁」は縁側の板を敷居と平行に張っている縁側を指し示すコトバでもあります。
建物に直行する張り方は「切り目縁」といいます。
プロジェクトの写真をより詳しくご覧になりたい際には下記リンクをご参照下さい。
ジェル・アーキテクツHP-House
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